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館長の談話室

談話室(3)

すすきの穂が風にそよぎ、日に日に秋の深まりを感じる時期になりました。「芸術の秋、到来!」とおおいに盛り上がりたいところですが、今年ばかりは、わたしたちコミネスも、万全の注意を払いながら、ひとつひとつ慎重に公演事業を進めています。

とはいえ、やっぱりこの快適な季節にじっとしているのはもったいない!そもそも、暑い夏が過ぎて秋風が吹くと、ようやく人はモノを考えたり、何か無性に作りたくなったり、暑さの中で「動物化」していた日々から、一気に「思索するホモサピエンス」へと変わります。だからこそこの時期に芸術や文化をたっぷりと吸収し、「感じ、考えること、感動すること」を楽しみ、「人間」ならではの喜びを謳歌したくなるのです。

ただでさえ、今年は当たり前の日常が変容しています。当たり前の自由が阻害されています。先日、若い俳優の卵たちとレッスンをしているときに、ショックな出来事がありました。いつもならば「豊かな表情」であるべき彼らの顔が、いまひとつはっきりしないのです。そのうえ、せりふのキレもいまいちです。

「なんだかおかしいよ。みんなぼやけている。」

なにか、もどかしいのです。なにかが、はじけない。なにかが、表に出てこない。なんだか、届いてこない・・・そのうち、気が付きました。

「これはもしかしてマスクの影響かもしれない・・・」

およそ半年もの間、毎日毎日一日中マスクをしていることによって、本来ならば誰よりも柔軟で豊かな表情であるべき俳優が、いつの間にか表情をなくし、大きく口を開けることを忘れかけているようなのです。そのうえ、なにより恐ろしいのは「他人と心を開いてふれあう」ことを無意識に避ける癖がつき始めているかもしれないということです。もしこの懸念があたっているならば、それは俳優たちにとっては致命的な大事件です。

たしかに、マスクをしていると、自分の「顔」は半分以上隠れ、表情も他人には見えなくなってしまいます。自分の表情に無頓着になり、同時に相手の表情を読み取ろうとする努力もおろそかになったりします。そのうち、「マスクの裏に隠れて本音をみせないほうが楽でいいや」になり、「関わらなくてもいいや」になり、もはや、心を開いた関係など”うっとおしい”とさえ感じるようになってしまうかもしれません。

「ウィルスも怖いけれど、マスクの影響も相当怖い・・・」

若い俳優もさることながら、自分自身を顧みつつ、「これからは、マスクの下でも精いっぱい表情を使ったり口を動かして、心の動きを鈍らせないように気を付けながらコロナ禍に立ち向かうぞ」と、秋風の中で決意をした次第です。